C型肝炎ウイルス(HCV)が警告!「セックスでの感染率が低いからといって油断するのは禁物よ!」

 

雅治(クリニック院長):前回の記事では、B型肝炎のウイルス(HBV)は男性の精液や女性の膣液の中にも存在するためSTD(性感染症)としての認識を持つことが必要という話をしたことを覚えているかな?

性感染症としてのC型肝炎

実はC型肝炎ウイルス(HCV)も、B型肝炎ウイルスほど感染率は高くないものの、セックスやフェラチオで感染するリスクがあるんだ。特に出血を伴いやすいアナルセックス、生理中のセックス、口腔内の粘膜を酷使している風俗嬢からのフェラチオには十分に注意しよう。

 

奈々(看護師):そうなんですね。1992年以前の輸血、ウイルスが混入した輸入血液製剤、違法薬物の注射針、タトゥーの器具が主な感染経路というのは知っていたんですが、性感染症としてのイメージは全く湧きませんね。

現在の日本は血液製剤や輸血用血液は厳しいチェック体制が整備されていますので、新規感染者自体は減少しているんですよね?

 

C型肝炎ウイルス(HCV):アナタの言う通りよ。ふ〜ん、最近の若い看護師はなかなか物知りなのね。え、ワタシ? 見ての通りC型肝炎ウイルス(HCV)よ。

全世界に"キャリア"と呼ばれる持続感染者が約1億7,000万人、日本国内でも200万人のキャリアがいるというのに、パッと見てワタシが誰だかわからないわけ? 前言撤回、やっぱり最近の看護師はちょっと物足りないわね。

輸血や血液製剤などの従来の感染ルートによる新規感染者は減っているということは、性感染症として感染の割合が相対的に増していることを意味しているのよ。

つまり、セックスでの感染リスクが低いからといってワタシたちを甘く見るの禁物なのよ! そこの先生ならワタシの言いたいことは当然、おわかりじゃなくて?

 

うん。一般家庭の夫婦間におけるセックスでの感染リスクは低いものの、アメリカでセックスワーカー(日本では性産業従事者と訳されることが多い)の女性を対象に行った調査では、C型肝炎ウイルス検査で陽性反応を示した割合が、同年代の女性の約10倍近くあることが報告されているんだ。

またこれもアメリカの調査なんだけど、2006年にC型急性肝炎を発症した患者さんの約36%は、C型肝炎ウイルスの潜伏期間(推定)中に複数の相手とセックスをしており、セックスの時点で相手がC型肝炎ウイルスの感染者と判明していたケースも10%あるんだ。

さらにHIVや梅毒の感染者を調べてみると、C型肝炎ウイルスを重複感染している割合が高いともされている。だから彼女が言うように、C型肝炎はSTD(性感染症)としての認識を持っておくことが大切なんだよ。

 

HCV感染から肝がんを発症するプロセス

なるほど〜。C型肝炎の一番厄介な点は、感染後2〜3か月後に発症する急性の肝障害の症状(全身の倦怠感や食欲不振、微熱など)が風邪と似ているため見逃されやすく、自然治癒しなかった60〜70%の感染者がそのまま「慢性肝炎」になり、さらに10年以上の年月をかけてゆっくりと、「肝硬変」そして「肝臓がん」に進行していくんですよね?

 

そうだね。慢性肝炎→肝硬変→肝臓がんと進行するにつれて、肝機能は損なわれていくから治療も困難となっていくよ。肝硬変になると、1年経過するごとに肝臓がんの発症リスクが7%ずつ上昇するとも言われているんだ。

C型肝炎の診断は採血をして、HCVの抗体があるかどうかを調べるんだけど、この検査で陽性反応が出たからといって必ずしもC型肝炎ウイルスに感染しているということにはならない。

なぜなら過去にC型肝炎ウイルスに感染したものの、現在は自然治癒して肝機能は正常という可能性も大いにあり得るからなんだ。

HCV抗体検査で陽性反応が出た人は、確定診断としてHCV-RNA測定と呼ばれる採血による検査をして、ウイルスの感染が現在進行形なのかを判定するんだ。

 

従来、C型肝炎の治療はワタシたちウイルスを駆除するためにインターフェロン療法というのが行われてきたわ。インターフェロンはウイルスの増殖を抑える働きのある特殊なたんぱく質のことよ。

体内で生成されるインターフェロン量はわずかだから、不足分を注射薬として補うことで、C型肝炎ウイルスをやっつけようというワタシたちには大変迷惑な治療法なのよ。ただしウイルスが必ずしも駆除できるわけではなく、副作用も少なくないため、ツライ治療なのは間違いないわ。

そしたらアナタ!ブリストルマイヤーズっていう製薬会社が、インターフェロンを使わずに高い効果を示す「ダクルインザ」、「スンベプラ」という飲み薬を開発して、日本国内でも保険適用になったっていうじゃない。そのニュースを聞いた時は「ワタシたちの命運もここまで…」と覚悟を決めていたわ。

でも、特定の遺伝子を持つ一部のウイルスには効きにくいらしいし、この薬を服用してウイルスの駆除に失敗すると、ウイルスがさらにパワーアップするという問題があるから全面的な普及には至っていないって話だわ。フフフ…。

ソバルディ、ハーボニーの画像

し・か・し!今度は「ソバルディ」と「ハーボニー配合錠」という、なんでもたった3か月の服用で95〜100%の確率でC型肝炎ウイルスを駆除できるという薬が発売されたっていうじゃない!?これどういうことよ?

 

日本では2015年5月に「ソバルディ」が、同年9月に「ハーボニー配合錠」が発売されているよ。ソバルティは"セログループ2(ジェノタイプ2)"という遺伝子型のC型慢性肝炎が適応となっており、リバビリンという抗ウイルス剤と併用する必要があるんだ。服用は1日1錠となっており、1錠の価格は驚きの約62,000円だよ。

一方、ハーボニー配合錠は"セログループ1(ジェノタイプ1)"という遺伝子型のC型慢性肝炎が適応で、こちらはリバビリンの併用を必要としていないのが特徴なんだ。服用は1日1錠となっており、価格は1錠で約80,000円と高額になっている。

 

随分と高いんですね。治療完了するまでに薬剤費だけで500万円以上かかる計算ですよね。C型肝炎の患者さんが従来の治療法を長年にわたって続けていたら、それ以上の医療費がかかることもありますし、何よりもこれまでの治療が功を奏せずに亡くなった人が、従来の生活を取り戻して普通に働くことができるようになるんだったら、それは素晴らしいことだと思います。

ただ、今後も高額な医薬品が続々と登場して保険適用となった場合、医療保険制度の安定した存続とのバランスという観点で色々と議論が起こりそうですよね。

抗がん剤の分野では、年間3,500万円もかかる薬(オプジーボ:小野薬品工業)の保険適用の範囲が拡大されたことを受け、新聞やニュースでも大きく報道されました。

 

一応言っておくけど、C型肝炎は鍋を一緒に食べたり、食器の共用、キス等で相手に移ることはないわ。流石に今の時代はこのような誤解している人は少ないと思うけど。

C型肝炎は、B型肝炎に対するHBワクチンのような有効な予防ワクチンは存在しないの。だから予防で大切になるのは、無闇に不特定多数の相手のセックスをしないことね。未だにコンドームの着用を面倒くさがる男が多いなんて、性感染症に感染したり、彼女に移したりするのが怖くないのかしら。

まあ、ウイルスのワタシには関係ない話よね、それじゃ今日はこの辺で御免あそばせ〜。オホホホホ♪