不正出血の原因はホルモンバランスの乱れのほか、怖い病気の可能性も!?

 

藤井さん(患者):え…?内診とか超音波検査をする必要があるんですか。生理以外の出血って、女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)のバランスが一時的に乱れたことが原因って聞いていたので、たいしたことないと思っていたんですけど…。

そうなんですか…これも「不正出血」に該当するんですね。言葉は知っていたんですけど、私みたいにオリモノに茶色っぽいシミがつく程度の出血でも、不正出血というですね?

不正出血って響きが凄い不安感を煽る感じがあるなーって以前から思ってたので、いざ自分がこうして言われてみると、なんだか凄い心配になってきました。

 

雅治(クリニック院長):大丈夫ですよ。不正出血とは、"生理でないのに膣から出血がある"状態のことを言います。「不正性器出血」と書くともっとわかりやすいかもしれません。

生理のように赤い鮮血がたくさん出るものもあれば、藤井さんのようにオリモノにシミが付いた程度の軽い出血、生理が普通にきても10日以上続くもの、これらは全て不正出血となるんですよ。

生理と生理の間、セックスの後など不正出血はさまざまな場面で起こるので、女性ならば誰しもが一度は経験としているはずなんですね。

実際、不正出血は婦人科の受診理由として、「生理痛、生理不順」や「オリモノの異常」と同じくらい多いんですよ。

だから、それほど心配することはありませんが、思わぬ病気が隠れていることもあるので、まずは不正出血の部位と原因をハッキリさせることが大切です。

不正出血の原因は大きく分けると「機能性出血」と「器質性出血」の二つがあります。原因として多いのは、生理周期やホルモンバランスの乱れによる「機能性出血」となっています。

特に思春期や更年期など、ホルモンバランスが乱れやすい年代になるとよく見られる出血です。ただし、性成熟期(10代後半から30代)の機能性出血には、頻度は高くないものの、ダラダラとした出血が続く「無排卵月経」、卵巣に大量の袋ができて硬くなり排卵が困難となる「多嚢胞性卵巣症候群」などの排卵障害、月経前に少量の出血が続く「黄体機能不全」などが原因となっていることもあるから、将来の不妊症のリスクも考慮した治療が必要になることもあります。

キチンと治療をすれば出産には問題ありませんから、自覚症状が出にくい卵巣機能のトラブルを不正出血が教えてくれたとプラスに解釈することも大切ですね。

 

奈々(看護師):不正出血の原因として「機能性出血」よりも注意が必要なのが、膣や子宮、卵巣などの病気によって起こる「器質性出血」のほうなんです。

 

子宮の病気って、ひょっとして子宮頸がんとか子宮体がんですか?。私はまだ30代ですから流石にがんは関係ないですよね…?

 

子宮がんと聞くと藤井さんのように、がんは40歳以上の病気と思っている女性の方は少なくありません。

子宮頸がんは20代でも油断禁物

確かに子宮の奥にできる「子宮体がん」は50代半ばが発症年齢のピークなんですが、子宮の入り口にできる「子宮頸がん」のほうは、20代や30代の発症が増えています。この世代における子宮頸がんの発症者はこの10年ちょっとで2倍も増えているんです。

子宮体がんは比較的初期の段階で不正出血が見られますが、子宮頸がんは初期症状に乏しいから、不正出血が見られる頃にはがんが進行していることもあるんです。

子宮体がんが増加する更年期前後に不正出血があった場合、ホルモンバランスの乱れによる「機能性出血」と鑑別することが必要ですので、早く診てもらうことが大切ですね。

 

だから不正出血で婦人科を受診なさった患者さんには、まず子宮頸部の細胞をブラシやヘラで擦り取ったり、オリモノを採取する子宮頸がんの検査が行われるんですよ。

でも器質性出血の原因が子宮頸がんや子宮体がんであることは稀です。だからといって油断して検査を受けないのは駄目ですけど、心配しすぎるのもよくないですね。

実際、器質性出血の原因としては、子宮筋腫、子宮内膜炎、子宮膣部びらん、子宮頸管ポリープ、クラミジアやカンジダの感染による膣炎などのほうが圧倒的に多いんですよ。

 

なんだかあんまり聞いたことがない病名(?)がいくつかあったんですけど、簡単にいうとどういうものなんですか?

 

じゃあ順番に説明しますね。「子宮筋腫」は、子宮の筋肉層にできた良性の腫瘍です。子宮筋腫は筋腫がどの方向に育っていくのかで3つのタイプに分類されます。

3つのなかでは発生率は低いものの、不正出血の原因となることが多いのが、子宮の筋層から内腔に向かって突き出る「粘膜下子宮筋腫」と呼ばれるタイプです。

出血が多くて貧血になったり、生理痛が酷い場合はピルでコントールするか、筋腫自体を手術で取り除くことで治療をします。

「子宮内膜症炎」は子宮内膜に細菌が感染して炎症を起した状態です。症状としては、発熱、膿の混じったオリモノの増加、下腹部痛などが現れることが多いですね。

子宮内膜炎の原因菌としては、連鎖球菌、ブドウ球菌、大腸菌、淋菌、クラミジアなどが挙げられます。治療には原因菌に合わせた抗生物質を使用します。

次は「子宮膣部びらん」ですね。"びらん"とは一言でいうと"ただれ"た状態です。ややこしいのは子宮膣部びらんの大半は実際にただれを起しているわけではないんですね。

どういうことかと、子宮の腟に面した部分の粘膜が赤く変化して、ただれたように見えるので、このような名称がついているんです。だから子宮膣部びらんは病気ではありません。

ただし、子宮膣部の細胞はもともと出血しやすいうえ、タンポンやセックスなどの刺激が加わったりすることで、血の混じったオリモノが出たり、不正出血を起こすことがあります。

子宮膣部びらんは、女性ホルモンの分泌が盛んな20〜40代女性の8割程度に見られるので心配ありませんが、子宮膣部は子宮頸がんができやすい場所で、初期の子宮頸がんにはびらんと同じような変化が見られるものもあるため、検査は必要です。

「子宮頸管ポリープ」は、子宮頸管の粘膜が増殖してできるイボ状の良性腫瘍のことで、不正出血の原因としては比較的頻繁にみられるものです。

ちなみにポリープとは「突起した病変」を意味しています。子宮頸管にできたポリープは組織が柔らかく充血しやすいため、セックスや運動といった僅かな刺激でも出血を起こします。血が混じった茶褐色のオリモノがよく見られます。

最後に「膣炎」です。膣炎の原因や種類は多く、クラミジアによる「クラミジア感染症」、トリコモナス原虫が膣の激しいかゆみ、オリモノの悪臭を引き起こす「膣トリコモナス症」や、ヨーグルト状の白いボロボロしたオリモノが増加する「膣カンジダ症」などがあります。

そのほかで注意すべき不正出血の原因としては、流産あるいは切迫流産、早産、子宮外妊娠などの妊娠に伴うものですね。これらの可能性を考えて、婦人科ではまず最初に妊娠の有無を確認させてもらっています。

 

不正出血で婦人科を受診したら、まず「問診」を行い、不正出血に気付いた時期、出血の量、痛みの有無・程度・部位、過去に罹った病気、現在服用している薬などを尋ねます。

問診を終えると、医師が膣内に指を入れて卵巣のや子宮の様子を観察したり、圧痛や疼痛がないかを調べる「内診」を行います。あわせて子宮頸部の細胞をブラシなどで擦り取ったり、オリモノの採取も行います。

また"プローブ"と呼ばれる超音波の探触子を腹部の上からあてたり、あるいは膣内に入れて、子宮や卵巣の様子を映像化する超音波(エコー)検査を行います。これにより子宮筋腫やポリープの有無、卵巣嚢腫などの異常がわかります。

血液検査では、出血による貧血の有無やホルモンのバランスに異常がないかを調べます。

 

色々見てきましたけど、出血の様子を見ただけで、その原因が病気なのかそれとも治療の必要がない一時的なものなのかを判断することはできません。

稀に子宮頸がんや子宮体がんのように重大な病気が隠れている可能性もあるので、「少しの出血だから大丈夫でしょ?」と自己判断するのはNG。婦人科で検査を受けて原因を特定することが大切です。

生理不順の女性の場合、そもそも不正出血との判断が難しいこともあります。この場合、基礎体温表があればホルモンバランスの乱れや排卵障害の有無も把握することができるので、婦人科としては大変助かります。

生理不順の人は、慣れるまでは面倒くさいかもしれませんが、普段から基礎体温の記録を習慣づけておくことをオススメします。基礎体温表を付けておけば、いざという時に早期の診断が可能になり、それだけ早く治療も開始できるというメリットがあります。